交通事故に関するコラム

高次脳機能障害の画像所見について

高次脳機能障害の判断に当たっては、脳の損傷の有無・程度が重要となるため、画像所見が大きな意味を持ちます。
ただし、気を付けなければいけないのが、交通事故直後に意識障害があり、重篤な高次脳機能障害を起こすような場合であっても、事故直後の脳画像では異常が認められないことが少なくないことです。
高次脳機能障害では、適切な時期に・適切な画像検査を行うことが重要となるのです。

 

CTとMRI

基本的な脳画像検査としては、CTとMRI検査があります。

① CT画像は、1.脳出血の確認に適している、2.骨折の有無が確認できる、3.検査時間が短い。
などの理由から、急性期の画像検査によく使われます。

② MRI画像は、撮影条件を変えることにより、さまざまな病変に合わせた撮影をすることが可能で、CT以上に正確な診断や損傷の程度の診断が可能となります。

CT画像だけでは、損傷や脳の状態は明らかにならないため、交通事故による頭部外傷事案では、早期に拡散強調画像(DWI)を含めたMRI撮影が重要です。

 

交通外傷による脳の受傷を裏付ける画像検査結果

自賠責は、高次脳機能障害を判断する要件として、「交通外傷による脳の受傷を裏付ける画像検査結果」を挙げています。
ここでいう「脳の受傷」とは、単純に脳を受傷したという意味ではなく、高次脳機能障害の原因とされる「びまん性軸索損傷」を裏付ける画像検査結果という意味です。
「びまん性軸索損傷(DAI)」とは、大脳白質の神経軸索が広範囲に渡って断裂したという意味ですが、この神経軸索は極めて小さいため、神経軸索そのものを撮影することはできません。
そこで、「びまん性軸索損傷」を裏付ける画像が必要となるのです。

①脳挫傷や脳出血(硬膜下血腫・くも膜下出血など)

これらの損傷が認められる場合、脳に強い外力がかかって脳に損傷を与えていることから、びまん性軸索損傷の存在が一定程度推定されます。
ただし、当該画像所見は軸索損傷自体を裏付けるものではありませんので、意識障害や高次脳機能障害の程度と併せて総合的に判断されるものと思われます。

②びまん性脳損傷及びそれに伴う出血像

前述の通り、神経軸索自体は撮影できないものの、受傷から早期に、拡散強調画像(DWI)などの感度の強いMRI撮影方法で検査を行うことにより、びまん性軸索損傷の大脳白質の剪断損傷部や脳出血が確認できる場合があります。
脳出血を伴う場合は、大脳白質部に微小な点状出血が認められます。

また、急性期の脳画像上、脳室内や中脳周囲などの部位に出血が認められた場合も、びまん性軸索損傷が疑われ、高次脳機能障害の発生が予見されます。

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びまん性脳損傷画像例

 ③全般性脳室拡大・脳皮質の萎縮

びまん性軸索損傷に特有の所見として、受傷後3ヶ月~6ヶ月程度での全脳室の拡大や脳表の萎縮があります。
これは、損傷した軸索がwaller変性を起こして清掃・除去されることにより、大脳白質の体積が減少するものとされています。
自賠責実務は、この所見を重視しており、脳出血や脳挫傷等の所見に乏しい事案でも、全般性脳室拡大・脳皮質の萎縮が認められる場合には高次脳機能障害を認める傾向にあります。

脳室拡大・脳萎縮を証明するためには、事故直後の画像と事故後の複数の画像を比較する必要があります。このため、頭部外傷事案では、交通事故直後に加えて、経時的な脳画像を撮影し、証拠を残しておく必要があります。

 

まとめ:高次脳機能障害の後遺障害獲得は弁護士にご相談を

高次脳機能障害の判断に当たっては、脳損傷の有無・程度を立証することが重要となるため、CT・MRI画像の読影力が必要不可欠です。画像の読影に当たっては、前述のとおり、撮影時期や撮像方法も考慮する必要があります。また、交通事故当初の意識障害の程度も、診断書やカルテ内容から立証する必要などがあります。(※「意識障害」については前章:高次脳機能障害の意識障害についてをご参照ください)

このため、高次脳機能障害の後遺障害申請は、通常の申請とは異なり複雑となってきます。適切な後遺障害認定獲得のためにも、経験豊富な当弁護士事務所にご相談頂くことをお薦めします。

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【当弁護士事務所の研究会の様子】
定期的にMRI・CT画像の読影や、医学・判例研究を行っております。

 

文責 プロスト法律事務所 弁護士 林 征人

 

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